コロナ前、いつも楽しみにしていた取材の一つが御坊ライオンズクラブ主催の「日高地方子ども暗唱大会」。3年ぶりに開かれた今回は、第10回の節目となった◆暗唱されたのは詩や童話、エッセイの一節。子どもたちの声で、言葉に生命が吹き込まれる。「スイミー」などはよく知っている話なのに、文にさっと目を通すのではなく語りにじっと耳を傾けると、物語の心が自分の心にしっかりと染み通ってくる。小さな魚たちが集まって巨大な魚となり、すいすい泳ぐのが目に見えるようだ。金子みすゞの詩「このみち」をゆったり語る声を聞くと、老若男女さまざまな人々が「このみちの先」を目指し、それぞれの希望へと続く道を一心に進む様子が脳裏に浮かぶ。今の時代を考え合わせたせいか、ふっと目の奥が熱くなった。文字を目でなぞるだけなら、きっとこのような感動はなかった◆世界情勢を反映してか、戦争をテーマとした題材は3点あった。戦死した若い兵士が家族を想う、田島征三「ぼくの声が聞こえますか」。広島の原爆で犠牲になった幼い少女への鎮魂を込めた、松谷みよ子「まちんと」。戦時猛獣処分の犠牲となった上野動物園の象について書かれた、土家由岐雄「かわいそうなぞう」。主人公達の過酷な運命は胸に迫り、自然と涙があふれる。戦争がもたらすあまりにも大きな悲しみは、過去のものであり続けてほしかった◆言葉は変わりゆく時代を語り、また、普遍的な真実を語る。人の心を動かす大きな力は、兵器が決して持ち得ないものだ。登壇した14人と3組の子どもたちには、時代に負けない言葉の力を知ること、その力を信じることが身につけられたのではないか。それはこの先大人になっても消えることのない、大きな財産となるだろう。(里)


