ワールドカップの熱狂とは裏腹に、一年納めの大相撲九州場所は連日の不入りが続いている。関脇に落ちた御嶽海は大関復帰条件の二桁に届かず、ご当所の大関正代(熊本出身)も相変わらずのドタバタ相撲で陥落が決定。北の富士氏は「この不入りの原因は正代にもある」と指摘した。

 横綱照ノ富士が初日から全休、人気者の遠藤、宇良も不調となれば盛り上がらないのは当然。NHK中継を見ていても取組より客席の有名人に目がいきがちで、今場所はファンの間で話題となるちょっとした〝事件〟があった。

 テレビを見ていると、向正面の溜席(たまりせき)や花道横で毎日観戦している人に気づく。名古屋では「白鷺の姐御」や「黒鷺の姐御」と呼ばれる着物の女性がいて、最近はある女性がネットで急上昇している。

 白系のワンピースで両手を膝に置き、姿勢よく正座を崩さず、すべての取組に表情を変えず小さな拍手を送る。テレビに映り込むその上品な姿がおなじみとなり、相撲ファンは親しみを込めて「溜席の妖精」と呼ぶ。

 東京ではほぼ毎日、地方でも何日か見かけるが、今場所は初日からその姿を見なかった。かわりに90歳を過ぎても若々しい「崑ちゃん」こと俳優の大村崑さんを見かけたが、12日目の24日、行司の向こうに妖精が舞い降りた。

 髪型、服装、姿勢の美しさは妖精そのもの。しかし、翠富士が力水をつける際、別角度で少し大きく映った顔はあきらかに妖精ではなかった。案の定、ネットでその真偽が話題となり、真相はやはり違う人物だったらしい。

 翌朝、相撲好きがよく訪れる御坊の喫茶店の常連さんも、ほとんどが本物だと思ったという。少しさみしい話ではあるが、土俵の外のミステリアスな妖精が面白い。(静)