「言いたいこと、いっぱいあるんですよ」。土井善晴さんは講演中、何度もそう言われた。先日開かれた市民教養講座でのことだ。筆者は講演にはその人ならではの体験談を求める気持ちが強いのだが、そんな細かいことを話す時間が惜しいとばかりに、次々と多くのメッセージが繰り出された◆全体的には日本の家庭料理についての話だが、特に心に残ったのは、日本特有の二つのものによる恩恵。まず豊富な水だ。「手を洗う」という行為を当たり前にできることで、清潔を保つ文化が生まれ、それが命を守ることにつながっている。また「けじめをつける」という気性もそこから生まれた◆もう一つはこうじ菌、学名アスペルギルス・オリゼ。日本にしかない、国菌だそうだ。国花は桜、国鳥はキジ、国蝶はオオムラサキ、国石は水晶だが、そのほかに国の菌もあったとは初めて知った。きれいな所にできるカビで発酵させる力を持ち、大豆からみそができるのもこの力による。土井さんは発酵による食物の生成を「神が造った」と表現された◆こうした日本固有の自然環境に醸成されたのが「利他」の心。調和を重んじ、他を思いやる。食べる人のことを考える、「料理する心」はこの利他に通じる。現代人はこの心を忘れすぎているという。大いなる自然との調和を心するのが本来の日本の国柄であると、腑に落ちる講演であった◆それは、自然を人間に合わせてつくり変えようとする、「人間中心主義」の西洋文明に向けてのメッセージにもなると土井さんはいわれた。21世紀にまで国家間の武力抗争が残ってしまった国際社会へ、何らかの有効な発信ができればと思うのだが。(里)