和歌山県立医科大学は15日、がん性痛やリウマチ、外傷や手術後の傷などで持続する強い痛みを生み出す原因のタンパク質を世界で初めて特定したと発表した。今後、物質活性化のメカニズムの究明や創薬の研究を進め、モルヒネなど医療用麻薬に代わる新たな薬の開発につながる可能性があるという。
痛みが発生する仕組みは、体に傷を負うとまず末梢神経に刺激が伝わり、脊髄神経を通って脳が刺激を認識して初めて痛いと感じるようになる。一般的な鎮痛薬はこれらの神経に作用させるアセトアミノフェンなどの物質を含んだものが多いが、リウマチや手術後の傷では軽減が難しい。また、医療用麻薬のモルヒネなどは脳に作用して呼吸抑制などの重篤な副作用を引き起こすことがあるため、特に術後の傷や外傷に関連する病気には使用することができないとされている。
今回の研究では痛み発生の仕組みに着目し、マウスを使って神経に存在する遺伝子物質を特定する作業を、北海道大学と兵庫医科大学との共同研究で実施。末梢神経にはタンパク質を作る遺伝子がいくつか存在するが、特に持続する強い痛みを感じとる遺伝子が今回特定されたTmem45b。Tmem45bが欠損したマウスに刺激を与えて痛みを発生させると、痛みを感じる強さの数値が抑制されることが分かり、Tmem45bは末梢神経に特異的に発現し、脳にはほとんど発現しないことも分かった。
医学部麻酔科学講座の川股知之教授、谷奥匡助教はこの日の会見で、「この物質は脳に発現しないことから、モルヒネのような副作用がないことが予想されます。Tmem45bをターゲットとした新薬開発は痛み治療のゲームチェンジャーになる可能性が十分にある」と話し、医療用麻薬に代わる鎮痛薬の開発に意欲を示した。