20年前の2002年という年は、世界に目を向けるべき大きな出来事が幾つもあった。1月にはブッシュ米大統領がイラン、イラク、北朝鮮を指して「悪の枢軸」と呼び、5月にはサッカー日韓W杯が開催。そして10月、北朝鮮から5人の日本人拉致被害者が帰国した◆日本では帰国直前、「24年も北朝鮮にいたのだから、洗脳されて人が変わっているのではないか」などと懸念する声もあった。だがニュースの映像を見ていると、タラップを降りてくる5人の1人浜本富貴恵さん(のちに地村さん)が家族らを認めてパッと満面の笑顔になり、思いっきり手を振った。その瞬間、そうした懸念も何も吹き飛ばして明るい空気に変わり、抱き合い喜び合う家族の姿は感動をもって見守られた。一瞬で空気を変えたあの笑顔は忘れられない◆帰国された1人、蓮池薫さんの講演を美浜町で取材した。印象的だったのは、非常に特異な体験を一人でも多くの人と共有すべく、力と張りのある声で熱を込めて分かりやすく話されていたこと。「広く伝えたい」という強い意志が感じられた◆語られた体験は具体的で臨場感があった。それだけに、「今この時も、故郷と家族から引き離され自由を奪われた人が海の向こうにいる」という事実の重さをひしひしと感じた。あの笑顔のように、24年の歳月を一瞬で飛び越えるほど「家族に会えてうれしい」という自然な感情を解放できる、本来の居場所へすべての拉致被害者が帰れることを願わずにいられない◆「突破口は必ずある」。そう確信する人が一人増えれば増えた分だけ、実現の可能性は高くなる。ウクライナ侵攻にもいえることだが、世論の高まりは風化の阻止と事態打開へ、大きな力となり得る。(里)