認知症カフェで司会を務める那須さん㊧

 今月21日は世界アルツハイマーデー。認知症になっても安心して暮らせる社会の実現へ、関係団体や当事者、家族らの地道な活動が続けられている。みなべ町気佐藤の那須孝二さん(73)は11年前、若年性認知症(アルツハイマー型)と診断されたが、病気のことをオープンにして前向きに社会生活を送っており、「病気を隠さないことで気分が楽になりました。勇気を持って一歩踏み出してほしい」と呼びかけている。

 那須さんは高校卒業後、大手電機メーカーのエンジニアとして定年退職まで勤め、62歳の時に若年性認知症の診断を受けた。当初は閉じこもっていた時期もあったが、田辺市の認知症交流会に参加して自分の話を聞いてもらったことで気持ちが楽になり、やる気が湧いてきた。翌年、地元区長に推された時には自身の病気のことを理解してもらったうえで引き受け、1年間の任期を務めた。

 日頃から医者に言われた①運動する②趣味を持つ③人と接する――を心掛け、サツマイモやオクラを家庭菜園で栽培。定期的に田辺市内での交流会に顔を出し、みなべ町では4年前から、毎月1回行われている認知症カフェ「おれんじの日」に参加。ボランティアスタッフの一員として司会も務めている。夏祭りの運営手伝いや町の依頼を受けて講演を行ったこともある。

 自身の症状については新しい記憶が3日ほどで思い出せなくなるが、毎日日記を書くなどして工夫。それ以外は普通の生活を過ごせており、「家族や地域の人たちが認知症を理解して支えてくれているおかげ。同じ病気を持つ方は、ぜひ相談交流会などの場に参加してもらいたいです」。現在、自宅では100歳となった妻昌子さん(67)の母橋詰キヌ子さんと同居。町外には長男、長女の夫婦と孫7人がおり、家庭菜園の野菜を送って「おいしい」と言ってくれるのがうれしいという。昌子さんも「最初は隠したい気持ちがありましたが、みんなが普通に接してくれてありがたいです」と笑顔をみせる。

 世界アルツハイマーデーは1994年、国際アルツハイマー病協会と世界保健機関の共同で制定された。国内では公益社団法人「認知症の人と家族の会」を中心に関係団体などが認知症への理解を呼びかける活動を展開している。