歌手と作家の両ジャンルで人気のさだまさし。コロナ禍の社会でそれだけにとどまらない獅子奮迅の活動を行った、その記録を綴った一冊をご紹介します。テーマは「コロナでも、ただでは起きない」。

 内容 2020年1月、「新型コロナウイルス」という未曽有の災厄のニュースが世界を走った。著者は日本一多くのコンサートを開いている歌手なのに、演奏活動がまったくできなくなってしまった。

 そればかりか社会の危機的状況は日ごとに深刻さを増し、著者はやむにやまれぬ思いを歌にした。タイトルは「緊急事態宣言の夜に」。この歌に込められた思いは二つ。一つは「人との距離(大好きだから会わないでおこう)」、もう一つは医療現場等、社会の維持のために頑張っている人への感謝。この歌をライブ配信、NHKの「今夜も生でさだまさし」等で歌うと大きな反響が返ってきた。続々とやってくる取材依頼にこたえつつ、願うのはやはり音楽活動の再開。 「このままでは音楽が死んでしまう」。2020年9月、細心の注意を払い、万全の体制を整えたうえで久々のライブを開催することができた。

 それだけにとどまらず、自身が医療に役立てるため立ち上げた「風に立つライオン基金」を生かすのはこの時とばかりに、集まっていた基金1200万円を発動。少ないスタッフと一緒になり、人脈をフルに生かしながら、歌手・作家の枠を超えてコロナ禍の社会で戦う…。

 「2020年のさだまさし」「風に立つライオン基金とさだまさし」の2部構成。

 私は中1の時からさだまさしファンで、御坊市でコンサートが開かれた時には短時間ながらインタビューをさせてもらった思い出があります。「最近の音楽に関心はありますか」ときくと「ないですね、自分がやりたい音楽はもう決まってるから。今の音楽が気になるという人もいるけど、僕は気にならないですね」と言っていたのに、その後テレビで、当時の音楽についてめちゃくちゃ詳しい話をしていたので「話が違う」と思ったのでした。

 本書はこの人の「ただ者でなさ」がよく分かる本ですが、それ以上に、「コロナ禍の社会」でさまざまな分野の支援活動を行う、その実際が非常に具体的に書かれているという点で大きな価値があります。風に立つライオン基金誕生のいきさつ、「やれる人、手伝って~」というやわらかなノリで大規模なボランティアが行われる「ふんわりチャンポン大作戦」の実際。そのノリに大勢の人がのっかって、実に大きな仕事が行われていく。

 「この国の医療崩壊をなんとしても食い止めなければ」という強い意志、豊富すぎるほどの人脈が、緊急事態下の社会で機能していく。 どのような社会情勢になろうとも、志を高く持って立ち向かっていくことで局面を動かすことは可能であると、心強く感じさせてくれるドキュメンタリー。(里)