先日、日高高校で開かれた「命の大切さを学ぶ教室」を取材した。講演したのは交通事故で高校生だった長男を亡くした三重県の鷲見三重子さん。長男拓也さんは、部活帰りに横断歩道で脇見運転の車にはねられた。病院でも意識は戻ることなく、2週間後に息を引き取った。


 事故直後、学校から連絡を受けた鷲見さんは、軽いけが程度と思っていたが、現場周辺で大渋滞が起こっていることから、ことの重大さに気付き、足が震え出したという。病院についてからは、真っ黒な袋に切り刻まれた制服が入っていることに衝撃を受けた。医師から「覚悟してほしい」と言われたときには、「息子が死ぬわけがない。この人はおかしなことをいっている」と受け入れることができなかった。事故後、拓也さんは目を開けることも話すこともない。血圧が下がり黄疸が出てくる中も、息子の無事を諦めることなく朝日に向かって祈り続ける日々を送った。しかし事故から2週間後、拓也さんは息を引き取った。


 拓也さんが亡くなった日から鷲見さん家族の時間は止まってしまったという。夫と娘の3人の生活だが、食卓に笑い声が響くことはなく、朝がきて、昼がきて、夜がくるだけの日々となった。その後、多くの人の活動や支えで少しずつ立ち直り、いまでは命の大切さを訴える活動をするまでに至った。


 鷲見さんの話はリアルそのもので、被害者家族にしかわからない思いや感情をストレートに伝えてくれ、生徒たちも涙を拭いながら命の大切さを感じていた。それと同時に、交通事故が被害者家族へ与える悲しみや影響を身にしみて感じることができた。なかなか聞けない貴重な講演。記事を通じて少しでも多くの人に届けばと思う。(城)