本紙連載小説、川越宗一著「パシヨン」は第3章に入り、時代は江戸初期に移った。戦国乱世の中世から近世へと移り変わったはずだが、キリシタンら弾圧される人々は平和とは程遠い境遇にある◆合戦、それに権力者による弾圧。近世以前、「個人の尊厳」という概念は存在しなかった。一方、20世紀は「戦争の世紀」あるいは「世界大戦の世紀」と呼ばれる。人間の歴史自体が戦争の歴史といわれるが、20世紀の戦争は犠牲の規模、残酷さにおいて19世紀以前とは比べものにならないという。その反動からか第2次大戦後には東西冷戦の時代に入り、東欧革命でそれも終結した。今も世界各地で続く武力抗争はミャンマー内戦、イエメン危機などほとんどが内戦で、国家間ではほぼ行われていなかった。今年2月24日までは◆ウクライナ侵攻が始まってから、今月3日で100日が経過した。今も毎日、多くの戦死者が出ている。人はどんなことにも慣れ、感覚を麻痺させてしまう生き物だが、これが常態であると錯覚してはいけない。現代は「戦争の世紀」といわれた20世紀でも、ましてや個人の生命の尊さが全く省みられなかった中世でもない。歴史の不自然な逆回転を許すべきではない◆20世紀前半のウクライナの歴史には「ホロドモール」と呼ばれる人為的な飢饉があり、多くの犠牲者が出た。詳述するのもはばかられるひどい歴史だが、そのような史実を知ると、なぜウクライナの人々が誇りを持ち、命を懸けて大国から国を守り抜こうとしているのか、胸に直接ひしひしとその思いが迫ってくる◆人々の「諦めない」という強い意志のうねりが空気を変え、事態を変えていくことは不可能事ではない、そうあって欲しいと祈りを込めて思う。(里)