「一夜にして状況が変わった」と、24日夕刻のニュースでウクライナ駐在の特派員は言った。前日まで犬を散歩させる人々の姿がみられ、平和だった街。「今、目の前で起こっている事態を、私も信じられない。やるせない思い」だと◆ロシア軍が、かつてソビエト連邦の一部だった隣国のウクライナに侵攻。紛争が起こっていた東部のみならず、首都キエフを含む全土を攻撃した。ウクライナ人の兵士40人以上が死亡。チェルノブイリ原発周辺では激しい交戦状態になったという。被害は一般にも及び、団地が爆撃されて子どもまでが犠牲になった◆子どもの頃に愛読していた「少年少女世界の文学ソビエト編」で、ウクライナの作家ゴーゴリの「隊長ブーリバ」を読んだ。コサック達の戦いを描いた勇壮な物語だった。日本でも知られるコサックダンスは、ロシアではなくウクライナの伝統的な舞踊だ。キエフ大公国を興した英雄達の伝説「大勇士小勇士物語」も読んだ。キエフという地名がしきりに報道され、「徹底抗戦」を呼びかけるウクライナ大統領の言葉を聞くと暗澹たる思いが募る◆30年前になくなった、かつての「東西陣営」という枠組みを再び出現させようとでもしているのか。ウイルスの克服という人類共通の課題解決へ国を超えて知恵と力を結集しなければならない、このような時に、時代錯誤とも思える軍事行動を誰も止めることができないと思うと、やり場のない怒りと焦燥に駆られる◆正論を100万回叫んだところで、事態を打開するのに何ら効力を発しない。それでも、「何もできない」と絶望するのではなく、状況を見つめながら世界のあるべき姿への思いを発信し続けることは、今こそ世界中で必要とされるのではないか。

(里)