中国産のアサリを熊本産として販売していた産地偽装の疑いが明らかになった。新聞やテレビの報道によると、おととし1年間の同県の漁獲量が21㌧だったのに対し、昨年3カ月間に熊本産として販売された量は推計2485㌧。実態とかけ離れた状況に農林水産省が調査し、全国のスーパーなどで熊本産と表示された31のサンプルのDNA鑑定から97%が「外国産である可能性が高い」と判断された。ほとんどが偽装されていたことになり、怒りというよりもあきれてしまった▼熊本県有明海沿岸は全国有数の干潟があり、昔からアサリ、ハマグリなどを対象とした採貝漁業が盛んに行われ、アサリの最盛期だった1977年は6万532㌧で、日本一の漁獲を誇るブランドだった。しかし、貝の生育環境下の悪化が影響して漁獲が減少する中、長年にわたって産地偽装が行われていたという▼特産のブランド化は一朝一夕にはいかない。全国に知られている日高地方の南高梅も先人たちの長年にわたる努力があった。品種の選定・登録から始まり、栽培の普及、そして認知度を高めるためのPR活動。生産関係者だけでなく、加工業者、行政などが連携し、いくつもの苦難を乗り越え、今の地位を築いた▼産地を偽装するということは消費者を裏切るだけでなく、特産品に関わってきた多くの人たちの努力を一瞬で無駄にする。今回の偽装に関し、熊本県はアサリの出荷を2カ月間停止すると発表した。当然、地元で真面目に漁を続けている漁師らは大きな損害を被る。しかし、それ以上に過去から積み上げてきた努力を踏みにじり、信用を失ったことに対する損失は大きい。犯した罪は重い。

(雄)