県立和歌山東、市立和歌山の2校に、センバツ出場決定の吉報が届いた。県内から2校は3年ぶり、公立2校の出場となるとじつに30年ぶり。昨夏の智弁和歌山の全国制覇に続き、野球王国和歌山の完全復活となる活躍を期待したい。

 和歌山市にはかつて、全国に名を轟かせた社会人野球の強豪住友金属があった。箕島高校春夏連覇のバッテリー、石井―嶋田が所属した1980年代前半には黄金時代を築き、通算8回の日本一に輝いた。

 住金和歌山は1942年(昭和17)に操業、戦後は日本の高度成長を支え、69年(昭和44)には5つの高炉が稼働。和歌山市は 「鉄の街」と呼ばれ、地域の子どもたちは大人になって住金へ就職することが一つの夢だった。

 しかし70年代以降、生産拠点は後発の茨城県鹿島にシフトし、和歌山は徐々に規模が縮小。2012年(平成24)には会社が新日本製鐵と合併、同時に住友グループから離脱。現在の日本製鉄は昨年9月、高炉2基のうち1基を恒久休止した。

 米国のペンシルベニア州に、鉄鋼産業の地として大いに栄え、その後見る影もなくさびれたアレンタウンという街がある。ビリー・ジョエルはこの街の無計画な産業政策に未来を奪われながらも、前を向いて生きる男の姿をうたった。

 日本製鉄の高炉休止に続き、先日、石油元売り最大手のENEOSが突如、有田市の和歌山製油所を閉鎖すると発表した。住金、東燃といえば、県民にとっては甲子園のように誇らしく、憧れの存在だったのも今は昔。和歌山はもはや日本のアレンタウンである。

 「すべての子どもに可能性があった。いまは暮らしていくのも大変。それでも俺たちは工場の街に住んでいる…」。ビリーの詩が哀しく響く。

(静)