東京大学で行われた大学入学共通テストの会場で、とんでもない事件が起こった。東大受験を目指していた名古屋の私立高に通う17歳の男子生徒が、共通テストの受験生ら3人を刃物で切りつけ、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。

 調べに対し、少年は「医者を目指して東大に入りたかったが、1年ほど前から成績が伸び悩み、事件を起こして死のうと思った」と供述したという。あまりに理不尽、身勝手な言い草に、怒りで体が震える。

 東大の医学部(理科三類)といえば国公立大の最難関。そこを目指すと口にできるだけでも、それなりに勉強はよくできるのだろうが、人間として本来備わっているはずの安全装置が作動しなかった。

 ある有名な心理学者は、人は誰もが下から上へ、健康で強くありたいと願い、自分を高めようとする健全な欲求を持つが、この目標が高すぎると不健全な野心となってしまうという。受験など他人との競争では、合格しなければ目標は達成できないと考える危険性を指摘する。

 失敗しても、己の非力を認め、ありのままの自分を受け入れられれば、人はしなやかに成長するが、自分はこんなものではないという根拠のないプライドが邪魔をする。

 「拡大自殺」ともいわれる無差別殺人の容疑者は一様に、何かの失敗を機に努力を放棄し、殻に閉じこもる現実の自分を受け入れられなかったか。今回の名古屋の少年も、東大合格だけが成功という強迫にとらわれ、精神のバランスを崩したのだろう。

 コロナのためにほぼまともな高校生活を送れず、いま、志望校合格へラストスパートの受験生諸君。人生は他人との競争ではない。結果はどちらにせよ、目標に向けた努力は必ず成長への血肉となる。

(静)