写真=出荷サイズに生育したクエタマ(近畿大学水産研究所提供)

 みなべ町漁業生産組合(小谷繁組合長)と近畿大学水産研究所白浜実験場が、共同で取り組んでいた高級魚「クエタマ」の陸上養殖試験が成功し、11月1日から同組合直売所で成魚の試験販売を開始する。クエタマは10年前、近大がクエとタマカイの交雑で誕生させた養殖魚。今回は初めて陸上養殖に取り組み、順調に生育したことで、安定生産や新たなブランド化が期待されている。

 近大では1988年、幻の高級魚といわれるクエの種苗生産に世界で初めて成功し、その後、完全養殖を確立した。ただ、クエは低水温環境では成長が遅く、出荷までに5~6年かかることが課題だったため、温暖な奄美大島で取り組む一方、11年には同じハタ科で成長の早いタマカイを交配させた交雑種「クエタマ」の誕生に成功。以来、海上養殖で生産しているが、今回は組合の依頼を受けて陸上養殖に共同で挑戦した。

 19年8月、500匹の稚魚で試験養殖をスタート。紀州日高漁協南部支所から場所を借りていけすを設置し、同研究所のアドバイスをもらいながらエサやりや海水管理など試行錯誤を繰り返してきた。台風等による停電が発生したときは、夜中に組合員が集まって発電機を動かすなどし、努力を重ねた。栽培には、みなべ町らしく梅樽を無償提供してもらって手作りで水槽に改造。はじめは2つのいけすだったが、生育とともに梅樽いけすを増やし、今では12基で行っている。飼育から2年2カ月、死亡もほとんどなく、485匹が元気に育っている。同研究所によると、海上養殖と遜色ない速さでの生育という。

 大きなもので3・1㌔あり、出荷サイズの2㌔以上の個体が150匹ほどに増え、味など品質面でも良好となったことから、いよいよ試験販売することになった。クエと同じような淡泊で上品な味わい。1㌔当たり5500円(税込み)での販売で、クエの半額程度となっている。

 小谷組合長は「海水温の上昇や黒潮の蛇行で水揚げは減り、加えて燃料高騰で漁業者を取り巻く環境は非常に厳しい。陸上養殖で漁業者の助けとなって、漁業の衰退を少しでもくい止めたい一心で取り組んだ。栽培に成功しても売れないといけないので、これからの鍋シーズン、クエタマをぜひ味わってほしい」と話している。問い合わせは小谷組合長℡090―5164―2400。