松竹映画100周年記念作品として制作、今月6日から全国で大好評公開中の映画「キネマの神様」。主演のはずだった志村けんさんが新型コロナのため世を去ったあと、遺志を継いで沢田研二さんが主演し、話題となっています。この映画の同名原作をご紹介します。ただし、原作とはいっても映画版とストーリーはまったく違います。あらかじめ言っておくと、どちらも素晴らしいです。

 物語 有名企業で課長としてバリバリ働いていた円山歩、39歳独身。ある事情から社内で孤立し、退職。

 父親のゴウはギャンブル好きでこれまでにもたびたび家族を泣かせてきたが、またも300万円の借金を抱えて入院してしまったと母に打ち明けられる。歩は、アパートの管理人をしていた父の留守番役を引き受け、管理人日誌にびっしりと書かれたゴウの文を見つける。それはギャンブルと同じくらい映画を愛する父が、名画座に通って一日3本のハイペースで鑑賞した映画の感想日誌だった。歩も幼い頃から父に連れられ多くの映画を見てきて、映画を愛していた。その思いを、日誌の余白に綴る。

 退院したゴウはギャンブルを禁じられたが、ネットで映画評など発信できる「ブログ」の存在を知り、ネットカフェに通い詰める。店員に教わって文章を打てるようになり、歩の文章を老舗映画雑誌「映友」のサイトに投稿。歩のもとに編集長から連絡が入る。
「うちで書いてみませんか」。夢をみているような気持ちで入社した「映友」だが、実は近年売上が激減。クセは強いが純粋に映画を愛するスタッフが、なんとか雑誌を存続させたいと頑張っていた。スタッフは「キネマの神様」と題するブログを立ち上げ、なんとゴウが書き手に。軽妙な文、独特の視点が大好評を呼び、英訳して海外にも公開されると「ローズ・バッド」と名乗る人物が他とは一味違う挑発的なコメントを送ってきた。「受けて立つ!」とがぜん張り切るゴウ。世界中のフォロワーが注目する中、2者の応酬が始まった…。

 はっきり言って泣きました。映画を愛する者の真摯な情熱が、ストーリーそのものにも文章にも充溢。

 凄いのは、ゴウの純朴で熱い映画評、ローズ・バッドの的確に裏の真実を衝く冷静な映画評、どちらもそれぞれに説得力があり、ぐいぐい読ませて腑に落ちさせるところ。この著者はただ者ではありません。

 斜に構えた見方が好きな人には奇跡的な展開がお気に召さないかもしれませんが、私はまんまと作者にのせられ、怒涛のような感動にとらわれました。借金まみれの「ダメ親父」ゴウがまだ会ったこともない友のために号泣する場面は、こちらも涙が止まりません。 (里)