さまざまな声や思惑の中で東京オリンピック2020が開幕し、1週間が経った。この間、日本勢のメダル獲得が連日報じられてきた。そんな中、予選を通過しなかったことが注目された選手たちもいた◆男子体操の内村航平選手は、何年も前から応援していた。重力から解き放たれたかのような演技、インタビューで見せる自然体の受け答えといたずらっ子のような不敵な笑みなども魅力だが、特に肩入れする気持ちになったのはあるインタビューでの答えだった。何の大会の前だったかは覚えていないが、プレッシャーは感じないか、という問いに対して彼は事も無げにこう答えた。「まったく感じない。むしろ燃える」◆世界的に活躍するアスリートはみんな、国内の多くの人の期待を一身に背負い、想像も及ばないほどの重圧に耐えながら戦っているのだと勝手に思っていた。そんなイメージをかるがると吹き飛ばすように、すがすがしいほどはっきりと否定してくれた。大抵の人が苦しめられる「プレッシャー」という見えない敵とは無縁に力を発揮する人が、実在している。その事実は心を軽くしてくれ、その言葉を思い出すたび、自分も何か腹が据わり勇気が湧いてくるような気がした◆予選敗退後のインタビューも、やはり内村選手らしい自然体の口調で心境を語り、何の言い訳もなし。後輩達へ託す思いを述べ、託された後輩の1人橋本大輝選手はその思いをしっかり受け継いだかのように、見事個人総合で金メダルを手にした◆一心に打ち込むこと、自分を燃やし尽くすこと。そうすることで力を得る。自由になれる。それを実践している人達の姿を見るだけで、自分の心も自由になれる気がする。(里)