写真=廣野さんが遺した「源氏物語」のノートと読破を喜ぶ会員の皆さん

 毎月御坊市中央公民館で活動している「源氏物語を読む会」が、22年かけて全五十四帖(じょう)を読了した。元高校教諭で須佐神社宮司の故廣野雅昭さん(御坊市塩屋町南塩屋)の指導で始まった会。「源氏物語」はおよそ100万字、400字詰め原稿用紙にして2400枚の大長編で、カルチャーセンターなどでも通常は一部を選んで学び、読破を目指すことはほぼないという。会員らは「長い年月をかけて、ようやく物語の最後に到達できました」と喜んでいる。

 元日高高校国語科教諭の廣野さんは退職後、3年がかりで「源氏物語」の全文を16冊のノートに書き写した。1999年、元日高高校図書館司書の中田京子さんがこのノートを目にして感動。廣野さんを講師に、中田さんの呼びかけに賛同した有志8人で「源氏物語を読む会」が発足した。当初は須佐神社の社務所で、廣野さんのノートコピーをテキストに勉強が始まった。廣野さんの音読と丁寧な解説で、平安時代の王朝文学の世界を深く学んでいった。だが、10年後の2009年に廣野さんが急逝。会員は深く悲しみ、「これからも学習を続けていくことが先生へのご恩返し」と、会場を御坊市中央公民館に移し、廣野さんと旧制日高中学校で同級生だった北出俊一さんを代表に、分担を決めて現代語訳などを参考に読み進めていった。

 五十四帖は長さもさまざまで、「じっくり時間をかけていては最後まで到達できないかもしれない」と、長編は音読を中心にしてスピードアップを図り、17年、「宇治十帖」と呼ばれる最後の十帖に入った。ここから4年余りをかけてようやく最後の「夢浮橋」に達し、4月15日に読了した。読み終えた瞬間には自然と大きな拍手が起こり、22年がかりで「世界最古の長編小説」が読み通せたことを喜び合った。その後、有田川町に住む廣野さんの長男晃さん宅を訪ね、廣野さんの神前に読了したことを報告した。

 今月27日の例会では、会員らはこれまでの思い出や「源氏物語」への思いを「最初は須佐神社の社務所で、畳に座って廣野先生の幅広く奥深いお話を聞くひとときはとても楽しかったですね」「作中に795首の和歌が出てくるのですが、400人以上の登場人物を書き分け、それぞれの身になって和歌を詠んだ紫式部はすごい作家だと思います」「平安の昔も今も、書かれている人の情が変わらないことに感動します」「女性は男性に頼って生きるしかなかった時代に、一人の女性によって1000年の時を超えて世界的に評価される物語が書かれたことは素晴らしいと思います」などと語り合った。会員には変遷があったが、22年間で延べ17人が学んだ。当初から参加している松本志津子さんは「廣野先生や北出先生、多くの方のおかげでこの長い物語を読み通すことができ、達成感と喜びでいっぱいです」と話している。現在の会員は次の皆さん。

 松本志津子、村松貴子、大谷泰子、鈴木淳子、宮本浩子、安宅川佳子、宮本眞琴