5月14日は「種痘記念日」。1796年5月14日、イギリスの外科医エドワード・ジェンナーが種痘(天然痘のワクチン)の接種に成功し、これが世界で初めてのワクチン誕生となった。1980年にWHOが「根絶宣言」を出した天然痘ウイルスは、人類が根絶に成功した史上唯一のウイルスである◆ジェンナーに遅れることおよそ半世紀。江戸時代後期の紀州藩で、ある医師が日本初の国産種痘を開発した。久木村(現白浜町久木)出身の小山肆成(しせい)。鎖国下で各地の医師は種痘の輸入に奔走するが、なかなかうまくいかなかった。肆成は家宝の刀など家財を売り払って実験用の牛を購入。妻を実験台にして種痘の研究に没頭し、1849年に開発に成功したという◆数年前、書家の弓場龍溪さんが本紙連載随筆で小山肆成を取り上げておられたことを、5月14日が種痘記念日と知って思い出した。和歌山県ゆかりの偉人といえば数々名前が挙がるが、肆成に関しては他に見聞きした記憶はない。「人類史上唯一のウイルス根絶」という成果に貢献した人物の一人として、もっと広く知られるべきと思う。一つのウイルスを地上から駆逐できたという事実に、学ぶことは多々ある◆勇気ある先人のおかげで、「ワクチン」という、ウイルスに立ち向かう手段を人類が手に入れて225年。世界中を混乱に陥れている新型コロナウイルスにも、今はワクチンが存在してくれる。予約の殺到や便乗詐欺、接種順序を巡るトラブルなども各地で起きているようだが、余計な混乱にかかわって消耗することはない。ワクチンがこの世に存在する以上「必ず収束する」と心を落ち着け、効率よく普及する方法を建設的に考えながら、冷静に待ちたい。(里)