今年の桜は咲くのが早かった。河津桜に始まり、山桜、花形のソメイヨシノ、4月の今は八重咲きの牡丹桜。桜シーズンもフィナーレである◆桜という木は花の時期に備え、秋から休眠する。そして冬の寒さを一定の長さ以上体験してから休眠を解除、開花の準備に入る。これを「休眠打破」という。美しい花を咲かせるためには、冬の厳しい寒さを必要とする。今年は特に冬が寒くその後の春が暖かかったため、桜も勢い込んで準備したようだ◆今月4日、夕方のニュースで競泳の池江璃花子選手を見た。東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権の女子100㍍バタフライで見事優勝。両手で顔を覆って泣いた池江選手は競技後のインタビューで、あとからあとからあふれ出る涙をぬぐいながら、言葉を押し出すように語った。「勝てるのはずっと先と思っていた…」「つらくても、しんどくても、努力は必ず報われるんだな、って」。白血病との診断が公表されて2年。どれほどの思いを乗り越えてここに到達できたのか◆「努力は必ずしも報われると限らない」という人もいるかも知れない。しかし言葉だけが単独で存在しているわけではない。池江選手の2年間という時間を余人が軽々しく推し量ることなどできはしないが、その2年間を経た彼女だからこそ発することのできた言葉には、千金の重みと価値がある。アスリートの言葉が胸を打つのは、その一言の中に彼ら自身が競技に注ぎ込んできた時間とエネルギー、実際の行動の記憶、そして思いの強さが込められているからだ◆厳しい冬の時間を糧として開花する桜。ソメイヨシノは実をつけないが、日本古来の山桜は花のあと実を結ぶ。小さくて食用には適さないが、味わい深い果実酒になるという。(里)