本紙3面で連載している小説、熊谷達也著「明日へのペダル」はスタートから3カ月近く、物語はコロナ禍の社会変化を描きながら進行している。この著者の作品を本紙で連載するのは、これで3作目だ◆「邂逅の森」で直木賞を受賞。本紙連載は1作目が野生動物と人間社会の共存を考える「相剋の森」、2作目は東日本大震災を現地からの視点で描いた「潮の音、空の青、海の詩」。著者は仙台市出身、在住である◆連載中の「明日へのペダル」は、50代で健康不安を抱えるサラリーマンの優一が主人公。物語は、昨年、新型コロナ禍が顕在化してきたころから始まっている。現在連載しているところでは、優一が実際に自転車に乗り始め、楽しさと苦しさを実感。社会状況としてはコロナ禍が進んでイベントが中止になり、リモートワークが始まっているところだ◆自転車の魅力を素人にも分かりやすく伝えてくれる少年漫画「弱虫ペダル」(渡辺航著、秋田書店)のファンだったので、興味深く読んでいる。この漫画の人気が高まるに連れて一般的にも自転車がブームとなり、日高地方のそこここでも自転車を軽快に走らせる人の姿を目にするようになった。県も「サイクリング王国わかやま」のアピールに力を入れ、コースの設定など行っているが、そこへ来てこのコロナ禍である◆「明日へのペダル」は仙台市周辺が舞台。東日本大震災からの復興にも触れられる。小説などの作品は、数字的な記録からははみ出してしまう人の心や街の雰囲気なども形にし、人々に伝えることができる。募る社会不安と自身の健康不安を、自分の身一つを頼りにハンドルとペダルを駆使して前へ進む「自転車」で乗り越えていく主人公の行く末を、楽しみに読んでいきたい。(里)