「全日本の歴史に刻み込まれる演技 すさまじい――ものを見せてくれました!」実況アナウンサーが、感極まったように叫んだ。フィギュアスケート全日本選手権男子フリー、最終滑走者の羽生結弦選手が演技を終えた瞬間である◆300点超えという高得点で5年ぶりに首位を奪還した羽生選手。その前日、ショートプログラムで演技を開始した瞬間「はっ」と瞠目させられた。手の動きだけで「何かが他の選手と決定的に違う」と感じる。さらに「レット・ミー・エンターテイン・ユー」のアップテンポな音楽に乗って「自由自在」という言葉を体現するようにかるがるとジャンプし、滑る姿を見ていると、「ザワッ」と鳥肌が立った◆そしてフリーは新プログラム、「天と地と」。1969年のNHK大河、軍神と呼ばれた戦国武将・上杉謙信が主人公の同名ドラマのテーマ曲だ。水色の着物風衣装で、鋭い闘争心を閃かせるかのような緊迫感に満ちた演技を見せる。ジャンプに一つのミスもなく、天に高く両手を突き上げてフィニッシュ。見る者に「すごいものを見た」と思わせる映像だった◆演技後の解説では、彼のジャンプが他の選手に比べ際立って高いことが示された。高く跳べることが高速回転を可能にし、表現の幅が広がる。輝くような華麗なジャンプを、限りない基礎練習と反復練習の積み重ねが支えている◆「コロナ禍の暗い世の中、自分がつかみ取りたい光に向かって手を伸ばすことができた」とインタビューでこたえた羽生選手。現実的には、光とは世界選手権への出場切符などの「戦果」を意味するかもしれないが、闇の向こうに確実にあるそれぞれの「光」に向かい、つかみ取ろうと手を伸ばす意志の大切さを身をもって示してくれたように思えた。(里)


