「20世紀の最後にえらい事件起きたな」「まだ犯人捕まらんのか」「じきに捕まるで」。仕事始めの1月4日、取材先の人たちと興奮冷めやらぬ様子で話をしたのがついこのあいだのようだが、もう20年も過ぎてしまった。

 世田谷一家殺人事件。2000年12月30日、午後11時ごろから31日未明にかけて、会社員の男性宅で家族4人が何者かに殺害された。現場からは凶器の包丁、血のついたトレーナーなどが見つかり、だれもが犯人はすぐに捕まると思った。

 多くの遺留品以外にも、犯人の指紋、血痕など決定的な手がかりがいくつもあり、警察は延べ5000万件もの指紋を照合、血液のDNA型判定など科学的な分析も含めて捜査を継続しているが、犯人を捕まえることができない。

 犯行の残忍さ以上に、犯人の不可解な行動が社会の耳目を集めた。一般的に犯人は目的を達成したあと、足がつかないよう指紋や足跡を消し去り、誰にも見つからないよう一秒でも早く現場から逃げるのが当たり前である。

 が、この犯人は4人を殺害してから数時間も現場に留まり、冷蔵庫にあったアイスクリームを4個も食べ、被害者のPCでなぜか劇団四季のチケットを予約しようとして失敗。あげくはリビングのソファで仮眠までとっていたという。

 覚せい剤常習者とみれば少しは合点もいくのだが、血液はそれを否定する。ならばサイコパスか。優秀な日本の警察が、多くの決定的な遺留品がありながら犯人を捕まえられない現実こそがなによりミステリアスで、さまざまな憶測、都市伝説を生み続けている。

 犯人はどこかにいるのか。もうこの世にいないのか。時効は撤廃されたが、年老いた被害者家族に残された時間は少ない。(静)