JAXAの探査機はやぶさ2が6年にわたるミッションを無事に終え、小惑星リュウグウから採取した物質を地球に届けた。日高川町小熊出身、北海道大学教授でリュウグウの試料分析チームのリーダーを務める圦本尚義さんの講演をこれまで3度聴き、はやぶさ2の動向にはずっと関心を持っていた◆アクシデント続きだった初号機とは違い、何の事故もなく完璧に任務を遂行。「人工クレーター作成、過程と前後の状態観察」など世界初の偉業を7つも実行した。「あまりにも順調で、映画にはなりませんね」と圦本さんは講演で笑わせてくれた。しかし映画にもならないほど完璧に、計画通り任務をこなしていく、それがどんなに偉大で貴重なことか◆このはやぶさ2には、初号機のミッションで得たことがすべて生かされた。「100点満点で1万点」というパーフェクト以上の快挙は、満身創痍で地球へ探査成果を届けて燃え尽きた初代はやぶさあってこそである◆「東京オリンピックで日本が盛り上がり、その年の締めくくりにはやぶさ2がリュウグウから帰る」講演ではそう話されていた。まさかオリンピックもなく、世界をコロナ禍が覆うこんな世の中になろうとは誰も予想だにしていなかった。不確実な世だからこそ、人は真実をつかみたいと希求する。はやぶさ2がリュウグウが持ち帰った玉手箱にあるのは、生命の起源に迫るかもしれない宝物だ◆はやぶさ2は次のミッションへ旅立った。目的地は地球と火星の間を回る小惑星1998KY26。11年後の2031年に到達する。閉塞感に閉ざされた世界に力を与えるのは、未来を見た時に明るい希望があること。はやぶさ2は我々に、科学的な成果以上のものをもたらしてくれた。(里)