テレビで見ない日はないぐらい、ニュースを視聴者に分かりやすく解説してくれるジャーナリスト池上彰氏。自身の半生を振り返りながら「仕事」について語った一冊をご紹介します。ことし5月に出たばかりです。

 内容 小学生時代に読んだノンフィクションから地方記者に憧れた著者。大学生活の終わり近くにあさま山荘事件の報道を目の当たりにし、「これからはテレビの時代だ」とNHKに入局。松江局、呉局で新人記者、若手記者として勤め、東京本局へ。やがて首都圏ニュースのキャスターとなり、「わかりやすいニュース」のため奮闘する。経済、政治など専門の記者は自分の目線でニュース原稿を書きがちだが、一般人の目線で「わからない」と突き返すうち「池上はわかりやすさに関してうるさい」と定評が立ち、「週刊こどもニュース」担当につながっていく…。

 常に明快に、一般人の疑問のツボを抑えて「そこ」が腑に落ちるようニュースを読み解いてくれる池上さん。そのスタンスがいかにして培われたか、自身の軌跡を明らかにすることで解説します。若いスタッフに「金融政策って何ですか」「日銀って?」等聞かれ「そんなことも知らないのか」と愕然としたことが、その後の方向性を決めたようです。

 聞き手の反応を見ながら話し、小首を傾げ始めると「あっここは」と少し戻ってゆっくり話す。「ゆっくり」にも種類があり、言葉を補いながらじっくり話す、話す速度を落とす、間をとるなど、場合に応じて使い分ける。そのきめ細かな対応も、すべて自身の知識や見識が「相手に本当に伝わってこそ、初めて生きてくる」と肌で感じているからでしょう。

 わかりやすい解説を通じて、多くの人に「いま」という時代について「考える材料」を提供する。それが「伝える仕事」の意義。