短歌をやっている母の本棚に20年ほど前からあった著者のサイン入り歌集ですが、今回初めて中身を読みました。それというのも、最近映画「三島由紀夫vs東大全共闘」を観て学生運動が盛んだった60年代という時代に触れ、和歌山市出身の著名な歌人である道浦母都子というこの著者も、闘争に身を投じた経験を詠んでいるときいたからです。

 一読して、逆巻く荒波の中を泳ぎ渡ろうとするような必死の闘いの日々が「三十一文字」という制限の中で生き生きと立ち上っていることに圧倒されます。決して好きな時代ではないけれども、むしろそんな時代に学生でなくて本当によかったと思っているけれども、知ろうとすることはどんな時代に対しても必要だろうと思います。それは現在のためにも、また未来のためにもなること。

 並ぶ短歌をただ読み進むだけで、異様な熱気の渦巻く時代がストレートに伝わってくるようです。

 「ガス弾の匂い残れる黒髪を洗い梳かして君に逢いにゆく」「テロルへの暗き情熱語り終え海の彼方へ石投げる君」「傷つきて倒れし友をかばいつつ足に鋭き痛みを覚ゆ」「任意出頭拒否すればすかさず差しいだす逮捕令状われは面上げて受く」「また細くなりたる腕を締めつけて銀鼠色に手錠が光る」「たまらなく寂しき夜は仰向きて苦しきまでに人を想ひぬ」「釈放されて帰りしわれの頬を打つ父よあなたこそ起たねばならぬ」「なお燃えて夜を殺戮に走る群れ遠く苦しく見つめいるのみ」「君も君も君も死ぬなよ蒼ざめし頬浮かびくる闇に叫びぬ」「振り向かぬ背が果てしなく遠ざかる思想という名の荒野を憎む」「炎あげ地に舞い落ちる赤旗にわが青春の落日を見る」「眠られぬ夜を明かして又想う苦しき今を今を生き抜け」