「関西の物語」という冊子がある。明治安田生命関西を考える会が毎年テーマを変えて発行している小冊子の2020年版だ。関西出身の作家の小説や、関西が舞台の映画等が紹介される◆関西出身の作家としては、司馬遼太郎、山崎豊子、横溝正史、川端康成らビッグネームが登場し、現在も活躍中の村上春樹、宮本輝、森見登美彦、万城目学、朝井まかてらも名を連ねる。作家は関西出身でなくても、谷崎潤一郎の「細雪」、三島由紀夫の「金閣寺」など関西を舞台とした著名な作品もまた数多い。関西という懐の広い文化の土壌は、文学に限っても実に豊かであることをあらためて知る一冊。江戸川乱歩が生んだ名探偵明智小五郎が大阪出身という設定だったことなど、ファンのつもりだったがこの冊子を読んで初めて知った◆しかし、和歌山県に関する作品の占める割合は比較的少ない。県出身の作家では有吉佐和子、佐藤春夫、中上健次、津本陽。県を舞台としたドラマや映画では「真田丸」「風見鶏」「海難1890」が紹介されているが、県民としては「辻原登は、神坂次郎は、香月日輪は、『純ちゃんの応援歌』は、『ほんまもん』は、『大誘拐』は?」といくらでも挙げたくなってしまう◆折しも本紙で連載中の小説、風野真知雄著「いい湯じゃのう」が、龍神村を舞台に話が展開しているところである。この物語は、紀伊藩主から江戸幕府8代将軍となった徳川吉宗を主人公とする、痛快ユーモア時代劇。吉宗がひどい肩こり持ちであること、龍神温泉に青春の思い出があることなど自由に想像の翼を広げた面白い話となっている◆土地の歴史や物語は、住民が持っていることを意識していない財産のようなもの。たまには取り出してじっくり眺め、その価値を再認識したい。(里)