小兵の炎鵬が懐にもぐり込み、鮮やかな出し投げで自分よりはるかに大きな相手を土俵に転がす。幕尻徳勝龍の初優勝で幕を閉じた今場所、両横綱が早々に休場した土俵を小さなヒーローが大いに沸かせた。

 にわかファンで盛り上がるラグビーに劣らず、いま、相撲が最高に面白い。この初場所の徳勝龍の優勝は誰もが予想外で、多くのファンはやはり横綱白鵬を筆頭に、同じく横綱鶴竜、大関貴景勝、関脇朝乃山らを優勝候補とみていたのでは。

 今場所、最も盛り上がったのは白鵬と遠藤の一番。先場所、遠藤は左の張り手と強烈な右かちあげをまともに食らい、ひざから崩れ落ちて流血した。これには横審も「横綱として見苦しい」と苦言を呈したが、43回の優勝を誇る白鵬はどこ吹く風。

 初場所前の稽古総見でも、先場所敗れた大栄翔を三番稽古に指名し、12番とって全勝した。他力士との勝負で疲れきっていた大栄翔を相手に、見守る横審委員をあざ笑うかのようにかち上げを連発。理事長の別の力士とやれとの指示も無視した。

 そんななかで迎えた白鵬―遠藤戦。白鵬はまたも先場所と同じ張り手とかち上げを繰り出したが、遠藤はこれを読んでいたかのようにかわして左を深く差し、強烈な投げをこらえ、最後は外掛けで背中から土俵にたたきつけた。

 国技館は圧倒的な遠藤ファンの歓喜に包まれ、いつも以上に多くの座布団が舞い、おそらく初めてであろう取り組み後の遠藤コールまでわき起こった。それほど先場所の白鵬の相撲はエグく、胸がすく見事なリベンジだった。

 もはやかち上げなしでは勝てぬ白鵬に、引導を渡すのは誰か。遠藤、朝乃山、正代…次の大阪も日本人力士に大いに暴れてもらいたい。(静)