都会の家族連れらにゆったりとした田舎暮らしの時間を提供している印南町の民間有志団体、町移住定住交流会の取り組みが3年目を迎え、日帰りと宿泊合わせ年間300人が同町を訪問するようになった。羽六地内の古民家を拠点にかまどでの自炊や山・川遊びなど多彩な体験メニューを実施。この体験をきっかけに移住してきた人もおり、行政の補助金に頼らない手弁当での活動が、まちの活性化に一役買っている。

 同交流会は「田舎をにぎやかにしよう」と集まった農業、漁業者、議員、役場職員ら異業種のメンバーで構成。毎月1回、意見交換の場を持ってまちの未来について考えている。都会の家族らの受け入れ拠点となる古民家は、羽六にある上西幸彦会長(57)=大工・農業=の旧実家。「こさめ庵」と名づけ、一部リフォームして宿泊や自炊ができるほか、昔ながらのかまどやまきで沸かす風呂、木工体験の場などもある。こさめ庵の県道向かいの所有地は印南のツチノコ伝説にちなみ「つちのこ広場」と命名し、キャンプができるようにもなっており、来年夏までに東屋や簡易な調理場を設ける。

 交流会メンバーはそれぞれの特技や職業を生かして、こさめ庵の目の前を流れる切目川で魚をつかまえたり、山で山菜を採ったりする体験を提供。ほかにも熊野古道ウオークや星空観察、ホタル観賞、餅つきなど、田舎では珍しくないが、都会ではあまりできない体験ばかり。毎月1回、メンバーが大阪市西区に出向いて野菜や魚の出張販売を行う際、農家民泊や田舎体験をPR。口コミでの広がりもあって京阪神だけでなく、山梨や神奈川県から来る家族、一度訪問して気に入って新婚旅行でまた来たカップルもいる。これらがきっかけで町内へ移住してきた人は、これまで10人になる。

 上西会長は「都会から来た人が求めているのは、自由にしたいことをして過ごす時間。まきを割ったり、自炊したり、川で遊んだり。あくまで私たちはそのガイド役。3年間取り組んできてそれが分かった」と話し、「印南町に観光地らしい場所はないが、山、海、川の大自然があり、都会の人にとってはこの大自然こそが遊園地」と田舎ならではの魅力を強調。「昔私がお世話になった観光地の民泊のおやじさんが『ストレスを抱えた子どもをやさしく迎えてやってくれ』と話していた。もう亡くなられましたが、私にとってはそれが遺言。健康な子どもはもちろん、自閉症や引きこもりの子どもたちも元気が出る場所にしていきたい」と熱い思いを語る。

写真=こさめ庵の訪問者を首に数珠を掛けるなど独特のスタイルで出迎える上西会長