イギリスの科学者ファラデーの「ロウソクの科学」が売れに売れているという。リチウムイオン電池の開発により日本人8人目のノーベル化学賞受賞者となった吉野彰さんの少年時代の愛読書として問い合わせが相次ぎ、出版社は急きょ増刷を決めたそうだ◆子どもの時、すでに理数系は苦手と自覚していたがこの本は「面白そう」と思った覚えがある。結局読まなかったが、おかげで吉野さんに勝手に親しみを覚えた。奥様と臨んだ会見では素晴らしい笑顔を見せて「(授賞記念パーティーで)ダンスがうまく踊れるか心配」など話し、人柄の温かさを感じさせてくれた◆日本人のノーベル賞第1号は、当地方にもゆかりのある湯川秀樹博士だ。詩情に満ちた自伝的著書「旅人」は、有名な「未知の世界を探求する人々は、地図を持たない旅行者である」のほかにも、いろんな示唆にあふれる名文がつづられる。「先生に教えられた通りに、答えなければならない学問。そんなものに一生を託すのは、嫌だ」の一文に、事を成す人の気概が光る◆AERAの記事によると、吉野さんがリチウムイオン電池を開発する過程でも「常識はずれ」の視点と発想が基になったという。学問は常に未完成だ。未来へ向けたリレーのように、誰かのアイデアや閃きの結実が、また次の世代の誰かのアイデアの素になる。吉野さんのノーベル賞受賞決定後初となる講義では、「私の経験や考えを貪欲に吸い取ってほしい」と述べられた◆関東から東北地方にかけて甚大な被害をもたらした台風19号のように、近年は海水温上昇の影響で台風が大型化。地球規模で環境が大きく変化している。大自然の脅威から人々を守る技術が、どうか近いうちに生まれてほしいと祈らずにいられない。(里)


