和歌山市中之島の童話作家、太田甲子太郎(かしたろう)さん(70)が、自身の交通事故体験を基に執筆し、わかやま新報に連載した小説『「6」からの誕生日プレゼントは生命(いのち)』を、和歌山新報社から出版した。事故から入院生活、回復まで、「6」にまつわる不思議なエピソードを交えながら展開する物語。太田さんは「思ってもみない理不尽な体験だったが、希望を捨てずにリハビリに励めば、社会生活を送れるまでになった。このつらい体験を少しでも皆さんに知ってもらえればうれしい」と話している。

 2016年6月から11月までの連載に加筆し、一冊にまとめた。挿絵は「そらねこ」さん、中西瑞季さんが担当。

 太田さんは14年(平成26)、66歳の誕生日でもあった6月30日の午後4時(16時)ごろ、市内を自転車で走っていたとき、信号を無視して走ってきた車に衝突された。

 骨盤やろっ骨を折り、肺にも穴が開くなどの重傷を負い、気づけば集中治療室にいたという。手術は6時間かかり、全治6カ月、666号室に入院するといった、「6」に関係する出来事が多く、不思議な運命に導かれるようだったという。

 事故直後は先が見えない不安や苛立ち、焦燥感にかられ、「現実として受け止めなくてはと思いながらも、何度夢であってほしいと思ったか分からない」と病床での日々を振り返る。

 いつか自身の体験を文章にまとめようと、毎日の出来事を詳細に記録し、小説では、入院患者の人間模様や回復までの自身の感情の機微、心の変化などを細やかに描写。さまざまな患者と心を通わせるエピソードなども盛り込まれている。

 大変なリハビリにも耐え、奇跡とも言える回復でほぼ完治したいま、昨今の交通ルールを無視した運転や、高齢ドライバーの事故にも心を痛める。「僕が体験したことは誰にでも起こり得ることですが、周りの人には同じような体験をしてほしくない。他人の人生を狂わせることなので、車を運転する人は交通ルールを守る意識を持ってほしい」と切に願う。

 最近は絵本の制作や作詞・作曲にも力を入れる太田さん。「僕の使命は書くこと。一度は死んだようなもので、生かされた命を大切に、前へ進んでいきたい」と話している。

 A5判、100㌻、500円(税込み)。ぶらくり丁のカフェ「ル・ボンン」や番茶屋、レモネードカフェのほか、宮脇書店ロイネット和歌山店などで販売。問い合わせはメールで太田さん(daminkutsu@gmail.com)。

写真=出版した小説を手に太田さん