ドラマ「世にも奇妙な物語」を見ると、誰かから見られている様なぞくっとした気分になりませんか。若者の陰の部分をリアルに描いてきた朝井リョウがドラマをイメージして小説を書いたらどうなるか。本家さながら5つの短編からなっています。その中から、「立て、金次郎!」という物語を紹介します。

27歳の幼稚園教諭、金山孝次郎は、保護者に気に入られることがすべてという園の考え方に疑問を感じていた。年間行事では「すべての子どもが平等に輝けるポジションを分け与えなければいけない」という暗黙の方針が。従わなければクレームが殺到し、園の評価につながるのだ。

11月の運動会。孝次郎は、クラスでも気弱な小寺学人を目立たせようと奮闘する。学人の母親は、園内でも影響力があるクレーマー集団に属する小寺久美。孝次郎は「久美に好かれなければ、PTA全体から強烈なクレームがくる」というプレッシャーをかけられる。そんななか、学人がかけっこ練習中に脚を負傷、運動会の出場が難しくなってしまう。

運動会当日。かけっこのプログラムが始まると、孝次郎は学人に何とかスポットライトを当てさせようと、とっさの行動に出る。学人の持つ可能性を引き出せたと孝次郎は得意げになるが、現場は混乱。久美ら保護者たちもやってきて、孝次郎は怒られると思いきや、久美たちに感謝の言葉をかけられる。「自分は間違っていなかった!」。幼稚園教諭として孝次郎は自信をつけるのであったが…。

実は、そのあとに別の視点から物語は続きます。現代に渦巻く息苦しさが的確に描かれており、ある意味ぞくっとします。各話の後味はそれぞれで、読んでみてのお楽しみです。次の奇妙な世界の扉を開けるのは、あなたかもしれません。