前作「64(ロクヨン)」から7年を経た最新作。今回の主人公は警察官ではなく、バブルに溺れ、その後を生き抜いた雇われ建築士で、これといった事件や殺人は起きません。自分が設計した家から消えた施主一家、その家に残された一脚の椅子をめぐる謎解きを軸にいくつもの出来事が重なる。追い詰められて人生をかけた勝負に挑み、すべての謎が解けた先に、夫として、父として、建築家として忘れていたものを取り戻します。

 あらすじ 大学時代の友人岡島が所長を務める小さな設計事務所で働く青瀬は、次々と舞い込む依頼を無難にこなすだけの毎日。ある日、どこか陰のあるクライアントから「あなた自身が住みたい家を建ててください」と依頼され、北の窓から差し込むやさしい光「ノースライト」を取り入れたこだわりの設計で、久しぶりに自分も施主も満足できる家を建てた。しかしその後、だれもが住みたいと思うその自慢の家に、施主一家が暮らしていないことが分かる。青瀬が家を訪ね、開いていた玄関から中へ入ると、そこには建築界の巨匠、ブルーノ・タウトの椅子だけが残されていた。一家はなぜ、どこへ消えたのか。青瀬は1人でその謎を追うが、岡島が事務所の命運をかけて、公共事業のある画家の記念館を建てるコンペに挑むことになり…。

 張り巡らされた伏線、長編を読ませる練りに練られた構成は今回もすばらしい。ただ、気になるのはこの作家のくせなのか、言葉の端折りが過ぎるところがあり、2人の会話がどっちのセリフなのか、突然、なんの話か分からなくなるところがいくつかありました。とはいえ、血なまぐさい事件はなくても、ドラマは作者史上最も美しく重厚。人間臭さ全開、親友と家族の熱い想いが胸に迫り、生きる力を得た気がします。