渡辺一史著 文春文庫 880円(税別)

本作は、昨年12月公開の映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の原作。難病の男性の生きざまと、彼に関わる介護ボランティアの方を描いたノンフィクション小説で、すべて事実をもとに描かれています。

主人公鹿野靖明は生まれつき筋ジストロフィーという難病に冒され、やがて介護生活を余儀なくされます。筋ジストロフィーとは、骨格筋の懐死・再生を主病変とする遺伝性筋疾患の総称。簡単にいうと、筋肉が動かなくなってきて、徐々に運動機能が低下してしまう病気です。この病気の難しいところは、内臓の筋肉も徐々に低下していってしまうというところ。呼吸ができなくなったり、食べ物が食べられなくなってしまうのです。言葉も話せなくなってしまい、最終的には延命治療に頼らなければ生きていけない状態に…。この病にかかった患者は一生、親の介護を受けながら生活するか、一生を障害者施設で過ごすかのどちらかを選択しなければなりませんが、鹿野はそのどちらも選ぶことはなく、「自立の道」を選択。自立といっても筋ジストロフィーになった患者は、絶対的に介護を必要とするため、一人で生きるという意味ではなく、「一人で生きる道をつくっていく」という意味の自立です。

彼は、自分で介護をしてくれるボランティアを募集。24時間介護を必要とするため、延べ数百人単位でボランティアの方と関わりました。当時の介護の様子や、ボランティアの方のメッセージ、当事者の感情をそのまま載せながら物語が描かれているので、読んでいると、鹿野が身近にいるように感じ、彼の言動に感化されて一緒に悲しくなったりと、感情が揺さぶられます。彼のありのままが描かれていて、一人の人間の生きざまがしっかりと伝わってくる作品でした。(米)