80年以上前に書かれた吉野源三郎著「君たちはどう生きるか」の漫画版がすごい勢いで売れている。発行部数200万部を突破したとニュースで紹介されていた◆中学生時代に図書室で出会っていた筆者は、昨年11月に池上彰氏の番組で見て懐かしさのあまり購入したが、その時は帯に「53万部突破」とあった。80年前の児童書の何が一体、現代に生きる人々の心をこんなにも強く捉えるのか◆父を亡くした中学生のコペル君こと本田潤一少年に、母の弟で編集者をしていた「おじさん」は手紙を書き、語る。「『あたりまえのこと』っていうのが曲者で、ひとつのわかりきったことをどこまでもどこまでも追いかけて考えてゆくと、ものごとの大事な『根っこ』の部分にぶつかることがあるんだ」「君は水が酸素と水素からできていることは知っているね。ところが、冷たい水の味がどんなものかということになると、もう、君自身が水を飲んでみないかぎり、どうしたって君にわからせることができない」「君が何かしみじみと感じたり、心の底から思ったりしたことを、少しもゴマ化してはいけない」...執筆当時の1937年は盧溝橋事件等のあった年で、日本は第二次世界大戦への道を進んでいた。失われつつあった自由な思考の大切さを、児童文学という形に託して少年への真摯な言葉で訴えた著者の熱い思いは、大人になって読んだ今の方が中学生当時より強く伝わってきた◆著者は最後に、読者一人一人に「君たちは、どう生きるか。」と問いかける。本から学んだことを何も生かせず何十年も生きてきた身には、恥ずかしくてこの問いに顔向けできないような気がするが、学ぶのに遅すぎることはない、と自分に言い聞かせながらまた読み直している。    (里)