海南・万葉の会主催、ミュージカル「有間皇子」は21日、田辺市新屋敷町の紀南文化会館で開催。劇団たなべ座の創立公演で、海南市の劇団KCMなどが協力。主演はKCMの俳優正木吉紀さん(田辺市龍神村)が務め、りりしく優しい有間皇子を好演した。
 斉明天皇の世、中大兄皇子が絶大な権力を持っていた。先の天皇の息子、有間皇子の皇位継承を望む声もあり、中大兄は有間を陥れようとたくらむ。それを察知した有間は、中大兄の警戒心を解こうと心の病にかかったふりをし、牟婁の湯(白浜温泉)へ湯治に出かける。都へ戻って斉明天皇にも湯治を勧め、中大兄らも共に南紀へ出かけると、蘇我赤兄が訪ねてきて天皇らが留守の間に兵を挙げるよう熱心に有間をそそのかす。赤兄も中大兄に親族を殺されたという過去があることから、有間はつい心を許し、話に応じる。その後「謀反の疑いあり」として捕らわれた有間は、白浜の中大兄らのもとに護送されて裁判にかけられる。さらに都へ送り返される途中、岩代で「岩代の浜松が枝を引き結び真幸(まさき)くあらばまた帰りみむ」など万葉集に残っている2首を詠む。海南の藤白坂で休みながら忠実につき従ってくれた家臣2人にねぎらいと感謝の言葉をかけ、直後に中大兄の命を受けた者によって絞首刑となるのだった。その後、天智天皇となった中大兄は、大陸での戦「白村江の戦い」で大敗。有間の亡霊が現れて、「民を救って下さい」と訴える声に心を動かされ、兵を退く決心をするのだった。
 民のため平和を願い、最後には中大兄の幸福をすら祈るという有間皇子の優しさを表現した劇に、大きな拍手が送られた。