茨城県で33歳の女性とその子ども5人が殺害される事件が起きた。遺体にはすべて刃物による刺し傷や切り傷があり、逮捕された女性の夫(32)が寝ている6人を襲い、殺害後、部屋に火を放ったとみられている。
 夫婦は何年も前からけんかが絶えず、最近は離婚をめぐってトラブルもあったという。大好きな車と子どもを妻にとられたくなかったという話もあるが、憎い妻を最初に殺したあと、なぜとられたくなかった子どもをわが手にかけたのか。
 この事件の2日後、スーパーで3人の子どもに万引きをさせたとして、神戸の32歳の母親が窃盗容疑で逮捕された。盗んだ商品を一緒にベビーカーに詰め込みながら、調べに対し、「子どもが万引きしたのは分かっていたが、自分は関係ない」と容疑を否認しているという。
 夫婦、親子など家族間で起きる事件と、友人や知人など血縁関係のない他人同士の事件はどれほどの割合か。意外かもしれないが、殺人事件に限ってみれば、家族間の事件が53・5%(2013年・警察庁まとめ)を占め、他人同士よりも多い。
 ひとつ屋根の下で暮らす家族は当然、他人より関係も濃密なため、よくも悪くも相手に対する感情、不満や怒りの振れ幅も大きい。小説や映画で描かれる事件は家族間で起きるものが多いが、これも書き手からすればごく自然な発想かもしれない。
 病苦や経済苦による心中、介護疲れの末の家族間の事件は痛ましさの奥に相手を思う愛があるが、茨城、神戸の事件はわが子への愛情がペットかそれ以下にしか感じられず、小説にもなりえない。この狂気と自己愛は決して特異なものではなく、誰もが直面する可能性がある世の中であることを思い知らされる。   (静)