東山の森Arkの地域文化発掘イベント、「文化じかけのオレンジ」を取材した。今回のテーマは殉難60年、デンマークのヨハネス・クヌッセン機関長だ
 昭和32年2月10日夜、美浜町の日ノ御埼沖で徳島県の機帆船「高砂丸」が火災に遭い、乗組員を救おうと嵐の海に飛び込んだのがエレンマースク号のクヌッセン機関長。翌朝、日高町の田杭海岸に遺体が救命艇と共に打ち上げられた。大筋は知っていたが、今回はさらに詳細に知ることができた
 エレンマースク号乗組員の証言をもとに、劇団RAKUYUの柳本文弥さんが臨場感あふれる朗読。それによると、高砂丸船長は一度はマースク号からの縄ばしごを伝い、助け上げられかけた。が、あとわずかのところで力尽きる。落下した海面の近くにいたのがクヌッセン機関長。一瞬も迷わず、後を追って飛び込んだ。もう少しで助かるところだったのだから、なんとしてもつかまえてこの世に引き戻したい、との思いがこみあげたのだろう、とその気持ちが伝わってくるように思ったのは、乗組員の詳細な証言と記録した人のおかげである
 当時を知る人の証言もあった。田杭の人々は、遺体を実際に目にし「こんなに体の大きな、立派な機関長が、日本人を助けてくれようとして命を落とした」ことに心を動かされ、遺体を運ぶヘリを見送りながら自然と皆で合掌したという。些細でも人々の心の動きが感じられるような具体的事実をしっかり伝えることが、真実を風化から守るのではないか
 紀伊水道を見下ろす日ノ御埼や田杭海岸沿いの山にことしも桜が美しく咲いた。この花は華やかさだけでなく気高さをも感じさせてくれる。私心なく純粋に人を助けることだけを考えた、まっすぐな心のように。 (里)