ドイツ在住の声楽家、岡坊久美子さんのミニコンサートと公開レッスンを取材した。日本の歌曲やオペラ曲、童謡などバラエティに富んだ内容で楽しかったが、個人的に興味深かったのはそのあとのレッスンだった
 「声楽は体が楽器」だという。頭部で響かせる高い声の「頭声」、胴体で響かせるどちらかといえば太い声の「胸声」がある。そんな専門的な話にはついていくのが大変だったが、ジャンルを超えて勉強になる言葉も聴けた
 響かない声を、息の力で無理やり前に押し出しても駄目だということ。きれいに響く声をつくり、その上でホール内にいる観客全員に届かせるようにする。客席後部のさらに後ろにある壁に意識をフォーカスし(焦点を当て)、声が高くきれいな放物線を描いてそこまで伸びていくイメージ。それを実現させるにはまず地道な練習、技術的な熟練が必要なのだろうが、「意識を遠くへ届かせることで、声もそれに乗って遥か遠くへ飛ばすことができる」と思うと、人間の可能性の広がりを想像できるようで、何か心楽しい
 響かない声はオーディエンスにまで届く力を持たず、届いたところで心を打つことはない。届けるに値する声を生み出し、そしてそれを、聴く人の耳と心に実際に届かせなければならない。どの分野の芸術でも、それは普遍的な心がけなのではないだろうか
 思った通りの声を実際に体から出すのはそう簡単ではないようだが、レッスンを繰り返すうち参加者の声の出し方が変わってきた。声が力を持つ感じだ。岡坊さんは指導しながら、少しずつお手本として声を出してみせた。自由自在にどこからどんな声でも出せるようで、「声楽は体が楽器」だそうだが、本当に岡坊さん自身が一つの楽器のようだった。(里)