本紙の企画コーナー「うちのおじいちゃんおばあちゃん」の取材で、弓道家の佐竹節夫さん、万里子さん夫妻にお話を聴いた。1時間近く話して下さり、大変勉強になった
「的に当てることは(弓道の)目的ではない」という。今すぐに矢を的中させる技術を身につけるより、遥か先になったとしても、本当の意味で美しく射ることができる境地を目指して基本から鍛錬する。心が磨かれると、恐れがなくなる。「禅の世界に近いかもしれない」という
取材のあと、有吉佐和子の東京五輪女子バレーに関する文を読むために以前買った「彼らの奇蹟 傑作スポーツアンソロジー」(玉木正之編、新潮社)に弓道のことが書いてあったのを思い出し、読んでみた。その中にあった、ドイツの哲学者E・ヘリゲル著「日本の弓術」。大正から昭和にかけて日本に滞在し、武道を体得したいと努力するヘリゲルは、弓術の師について学び、わらの束を的代わりに4年間も練習。ようやく的を射ることを許される。60㍍先の的に向かって立ち、当てるために弓をどう持てばいいか尋ねると、師の答えは「的のことも、中(あ)てることも、その他どんなことも考えてはならない。弓を引いて、矢が離れるまで待っていなさい」だった
弓の道は奥深い。真にその道を究めるためには、余分な時間はないという。世間的なことに気を配らねばならない日常生活とは、次元が違うようである。それは人の心が目指すべき、理想の状態なのかもしれない
そんな境地を語る節夫さんから、そうは言ってもやはり「花を見れば美しいと思うし、孫を見ればかわいいと思う」との言葉が出て、心が和んだ。2人のお孫さんはその言葉を納得させるように、元気いっぱいの無邪気な笑顔を見せてくれた。(里)