絶海の島の野球少年が白球とでっかい夢を追いかけ、由良町にやってきた。東京の南の太平洋に浮かぶ、日高地方から1000㌔ほど離れた東京都小笠原村父島=下に地図=出身の藤永太一君(13)=門前=。部員不足や地理的ハンディのある父島では大好きな野球に打ち込めないため両親とともに移住し、今月8日に由良中学校へ入学。町内の硬式野球チーム、紀州由良シニアに入部した。小学校を卒業したばかりのあどけない球児だが、「将来はメジャーリーガーになりたい」ときっぱり。新天地で夢実現へ燃えている。
 野球が好きになったきっかけは、人気アニメ「MAJОR(メジャー)」。主人公の野球少年がメジャーリーガーへと駆け上がっていくストーリーに夢中になり、小1春から島の軟式野球チーム、小笠原ファイターズに入部した。人口2800人程度、ホエールウオッチングなど大自然を生かした観光中心の小さな村で、村内のチームはファイターズのみ。練習は週1回、対外試合は年1回、北へ700㌔の八丈島で開催される招待試合への出場だけという球児には恵まれない環境だったが「野球が好き」「メジャーリーガーになりたい」との情熱は冷めなかった。
 ファイターズのコーチが紀州由良シニアOBで、御坊市出身の東京都職員。その縁で由良町と出会った。小3から毎年1回、由良町を訪問。5、6年生になると紀州由良シニアの体験練習にも参加し、昨年春の全国選抜4位など全国出場11回の強豪に憧れを強くした。村内の中学校では部員不足に悩む部活の軟式野球チームが活動しているだけの中、5年生夏には夢実現のために「中学校から強いところで野球をやりたい」と決心。それから1年以上、毎朝6時に起床、ランニングや素振りの自主トレに取り組んできた。
 父・一郎さん(41)、母・法子さん(48)と3人家族。父は福島県、母は東京本土の出身。「自分たちもやりたいことをやってきた。子どものころからやりたいことが見つかるのは素晴らしい。応援するのでとことん頑張ってほしい」と後押しを決め、一家で移住した。法子さんは「不安、心配もありましたが、毎日真剣に朝練する姿を見て協力してあげようと思いました」。生活指導もしっかりとしてもらえるチームと知り、息子の挑戦に賛成した。
 148㌢・34㌔、右投げ右打ちの内野手。体力、技術的にもまだまだこれからだが、小学校の卒業式の日も朝練をした、学校の授業で有名な人物について調べるという課題が出された時には田中将大投手(米大リーグ、ヤンキース)を取り上げるなど野球に対する思いが伝わるエピソードは数え切れず、みなぎるやる気で実戦経験の少なさはカバーしていく。フェリーで25時間かけて東京本土に渡って由良町へ来て20日弱。「島の友達と別れるのは寂しい」との思いも消え、「毎日思い切り野球ができて、すごく楽しい」と念願の新生活に大満足している。
 小学校時代はエースで、学年が上がれば投手を希望。将来については「高校からアメリカに留学したい。マー君(田中将大投手)みたいになりたい」と目を輝かせ、「メジャー」の主人公を現実にするつもり。紀州由良シニアの原政治監督も「身体能力が高く、練習を積んでいけば楽しみな選手。何とか一人前に、夢をかなえられるような選手に育てていきたい」と話している。