平成27年度御坊市民教養講座全6回が終了した。最終講座の講師はJAXAシニアフェローの川口淳一郎氏。小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーを務めた人物である
日本のロケット開発の父・糸川英夫博士にちなんで名付けられたイトカワからはやぶさが持ち帰ったのは、いわば「太陽系いにしえの記録」。その試料から、イトカワが石と金属でできている、地球とは別のタイプの天体と分かった。地球の最大の特徴は水と有機物があること。後継機「はやぶさ2」が向かっているリュウグウは、より地球と近いタイプの小惑星だという
講演では「見えているものはすべて過去のもの。見えていない未来こそ探していかなければ」というISAS名誉教授の故長友信人氏の言葉が紹介された。「未知の世界を探求する人々は地図を持たない旅人である」という、当地方にも縁のある湯川秀樹博士の言葉を思い出した
目先の成果を追求するのではなく「知の水平線」を広げることこそ大事なのだ、と川口氏は熱を込めて語った。現実社会では分かりやすい成果が要求される。「夢でメシが食えるか」とよく言われる。しかし「むしろ『夢も見れないでメシが食えるか』と言いたい」と川口氏は言われた
まだ誰も到達していない真理を見すえる視点。壮大なものに立ち向かう高揚感。そうしたものが実生活で何か役立つわけではない。だが、それを追い求める情熱は潤いや光を生み、心を育てる。文化や教養とはまさにそうしたものではないか
目先の成果にこだわることが時として必要なことも確かだが、それとはまったくスケールの違う大きな指針を掲げることは、心に高さと深さと奥行きを与え、人の器を大きくしてくれる。(里)