芥川賞受賞作品「火花」が未だかつてないほどの盛り上がりを見せている。単行本の発行部数は、芥川賞作品としては前人未到の229万部になるという
コント番組で、著者の又吉直樹氏が所属するお笑いコンビピースのネタを見たことがあった。化け物2人が連れ立って買い物に行く設定で、妙に心温まる話。1位のコンビの方が笑えたが、ネタがあとまで心に残ったのはピースだけだった
その1人が小説を書いたというので興味を持って読んだのが1月。その後どんどん評判が高まり、芥川賞を受賞するに至ってもはや社会現象となった。内容は、師弟関係を結んだ2人のお笑い芸人の10年間。心情が丹念に書き込まれ、短編だが長編並みの密度。お笑いの世界を描いても軽妙な作風でなく、人と人との関係性の本質に迫る正統的な純文学である。ピュアな情熱を感じさせるところに好感が持てた。とはいえ正直、芥川賞をとるほどの出来栄えとは思えなかったが、伸びしろの大きさを感じさせるのは確かで、可能性に贈られた賞だろうと思った。何より出版業界が活気づいたのが大きな功績かもしれない
純文学は筋の面白さとは別のところに感動のポイントがあり、感覚的に合わないとよさを実感できない。あまり多くの人に読まれると必要以上に「思ったほど面白くない」という反応が起こるのではと老婆心ながら心配したが、ある番組で又吉氏の書いた絵手紙を見た。どっしりしたカブト虫の絵に「動じるな。」と言葉が添えられていた。「火花」より直接的に氏の作家性を見たような気がして、これなら読者のどんな反応にも動じず書いていけるのだろうなと思った
小説好きとしては、新たな可能性を持った作家の出現に期待したいところである。(里)

