アメリカ映画の名作『タクシードライバー』。主人公はベトナム帰りの元海兵隊員で、不眠症で定職に就けず、タクシー運転手のバイトで真夜中の危険な街を流しながら孤独感を募らせ、職場の仲間や好意を寄せる女性ともうまくいかず、少しずつ精神を病み、ついには大統領候補暗殺を企てる。
 デ・ニーロ演じる主人公は友達も恋人もおらず、好きな女性を食事に誘う勇気はあるが、その後に入った映画はポルノ作品だったり、「いい人だけどちょっとおかしい」。悪いことは何もしないのだが、思い込みが激しく、人とのコミュニケーションに難があり、誰ともつながれない生活を送るうち、自らを善、腐敗しきった社会を悪として、自分の中に破滅的な別の人格をつくりだす。
 この映画は、のちのレーガン大統領暗殺未遂事件の容疑者に影響を与えたといわれるが、一見、政治や宗教に絡んだテロ事件の犯人の多くは、どれも根っこは精神的な自己破壊衝動(タナトス)につながっているのでは。
 秋葉原の無差別殺人、ボストンマラソン爆弾テロ、先の首相官邸ドローン落下事件もしかり。いずれも容疑者は孤独の中で人知れず事件を準備し、誰にも相手にされない自分の存在を痛烈に知らしめるため、ブログやツイッターで予告のうえ、やけっぱちの犯行を実行に移した。
 ドローン事件も反原発が云々されるが、実態はレーガン大統領を狙った男と同じく、エセ反社会の最強無職の模倣犯に過ぎない。ある犯罪学者は「主義主張を振りかざすテロリストにも、興味本位の愉快犯にも当てはまらない中途半端なタイプ。反原発を主張することで、正義の味方を演じたかったのでは」。哀しいほど的確なコメントではないか。(静)