クリミア共和国をめぐる問題で、ロシアのプーチン大統領が欧米から非難を浴びている。平和の祭典のソチ五輪の裏ではロシア、EU、米国が激しい政治闘争を繰り広げ、欧米の首脳が開会式を欠席するなか、安倍首相は急きょ、世耕官房副長官を伴って開会式に出席。プーチンに〝貸し〟をつくり、北方領土問題解決に向けた交渉加速を確認した。
北方領土は日露通好条約、樺太千島交換条約を経て、日露戦争後のポーツマス条約では一度放棄した樺太の南半分を合法的に譲り受けた。日本が2個目の原爆を落とされた昭和20年8月9日、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄し、ポツダム宣言受諾を表明した日本に対し参戦。15日以降も北方四島と南樺太に侵攻し、以後、今日まで不法占拠が続いている。北方四島はもちろん、南樺太も返してもらわねばならない。
安倍首相は親日のASEAN諸国を重点に、自由と民主主義の価値観を共有するインドや豪州との関係を強め、アフリカでは企業が人材を受け入れ技術指導する支援例を示し、利益も雇用も生まず、技術も残さない「中国式貢献」との違いを強調した。今回の緊急訪ロも機を見るに敏といえる。
中国の暴走を封じるためにも、ロシアとの安全保障協力は重要。しかし、ここにきての米ロの関係悪化は、一つ間違えば日ロの平和条約交渉どころか、日本は米国との同盟によるロシアの攻撃対象となる可能性も危惧されはじめた。安倍首相は引き続き、ウクライナ問題でロシアと綱引き状態にある米国に配慮しつつ、慎重な外交が求められる。
クリミアという魚を釣ろうとする米国とロシア。これを橋の上から眺める中国と日本。漁夫の利をせしめるのはどっちか。 (静)