自分自身はスポーツと名のつくものには縁遠いが、テレビでの観戦は好きだ。ロシア西端のリゾート都市ソチで、冬季五輪が始まった。
 意外にも、ロシアでの冬季五輪開催はこれが初めて。夏季五輪なら、当時はソ連だったが今から34年前の1980年にモスクワ五輪が開かれた。あの時はソ連軍のアフガン侵攻にアメリカが抗議を表明するため参加をボイコット。日本をはじめ西側諸国もそれに習った。子ども心に、こんなに大勢の人がボイコットに反対しているのになぜ通らないのか不思議に思った。理不尽なことを大勢でも止められない場合があると知った始まりかもしれない。東側諸国は報復として4年後のロス五輪をボイコットし、大人もこんな子どもみたいな真似をするのかとあきれたのを覚えている。
 1945年のヤルタ会談に始まった東西冷戦は、1989年のブッシュとゴルバチョフによるマルタ会談で終結。東欧諸国で民主化革命が起こり、東西対立の象徴だったベルリンの壁は崩壊し、大国ソ連も地上から消えてしまった。ロシア帝国からソビエト連邦、そしてロシア連邦。この国初めての冬のスポーツの祭典で競う10代の選手達は、ソ連という国を知らない。
 東西の対立がなくなれば世界は平和になるかと10代の頃は思っていたが、世界はそんなにシンプルではなかった。それでも日々、世界は刻々と動き、新しい世代が誕生する。世界はまだどんな方向へも変わっていく可能性がある。融和の方向へと人々を動かす力となるのは芸術やスポーツ、そこから生まれる感動であろう。
 雪と氷の上で、熱いドラマは誕生するだろうか。あらかじめ筋書きが書かれていないから、歴史にもスポーツにも人は惹きつけられる。   (里)