「この一球は絶対無二の一球なり されば身心を挙げて一打すべし」――。先日、日高川交流センターで開かれた日高地方子ども暗唱大会(御坊ライオンズクラブ主催)の中学生群読の部で優秀賞を受賞した、御坊中2年生の3人が暗唱した言葉の一節だ。
取材のあと、記事を書くため受賞者の発表した題材についてインターネットなどで調べる。この作業が筆者には非常に楽しい。心動かされる詩と出会ったり、知っているつもりのテーマでも調べてみると意外な背景が分かったりする。冒頭の一文の出典は福田雅之助氏の「庭球訓」。早稲田大学庭球部OBで、第1回全日本テニス選手権大会(大正11年)の優勝者だ。
暗唱した3人はテニス部で、前半は福田氏が後輩に残した「本気な人間になれ」を発表。「君達は、フェアプレーを体得した立派なテニスプレーヤーになることだ。テニスを通じて、本気な人間になることだ。いい人間がいいテニスを生むと私は思う」などテニスを通じて自分を磨く心構えをやさしい言葉で説いた文章で、続いて「庭球訓」を暗唱した。
「この一球は...」は、三十数年前に有名なテニスのアニメで引用されたこともあり、名言として知られる。パソコンの画面であらためて全文を読み、白球を心に打ち込まれたような新鮮な感動を覚えた。同じ球は二度と打つことができない。心して立ち向かわねばならない。茶道の「一期一会」に通じる境地である。
日常で「身心を挙げて」物事に当たることがあるだろうか。「絶対無二の一球」に向かう心を、いつも持つことができるだろうか。中学生達の凜とまっすぐな声、小学生達の元気にあふれる声の発表は、言葉が人に与える力の凄さを教えてくれる。 (里)