今井美樹が松任谷由実の曲をうたうアルバムが売れているらしく、そういえば、ラジオのヘビーローテーションでよく歌声を耳にする。他のアーティストの曲をうたうことを「カバー」といい、音楽業界は猫も杓子もこれが流行。ショップの棚を見ても、ジャンルの1つとなっている。
アーティストとは、ゼロからの下積みを経て自分のオリジナルをヒットさせ、その後もさらにそれを上回る作品を創作、発表し続けてこそプロではないか。だれがうたってもすばらしい名曲を、多少のアレンジを加えてわが者顔で発表されても、人のふんどしで相撲をとってる感は拭いきれない。
徳永英明のように、かろうじて過去に自分のヒットがあるならまだしも、歌手でもない中途半端なタレントがカラオケがうまいと評判になり、そのままカバーアルバムを発売するケースもある。人の褌で相撲をとるどころか、相撲のあとに虎のマスクをかぶり、他人の念仏で極楽参りをするようなもの。友人はこの状況に、「羞恥心はないのか」と憤る。
売れっ子百田尚樹の近作に、作家を夢見る人たちを食い物にする悪徳出版社を描いた小説があるが、ネット社会で同じく不況にあえぐ音楽業界のカバーも、手っ取り早く儲けようという魂胆は相通じる。本はどのような経緯であれ、実際に書店に自分の本が並べば、著者は作家になった気分になり、カバーの場合は歌い手も作詞作曲者もレコード会社もみんなが儲かる。
音楽のカバーは名作を生み続ける大御所の遊びであるべきで、一つの道を極めた人がつれづれに書くエッセーのようなもの。そういう意味では、カバー曲でのデビューは、いきなり作家まがいのエッセイストといったところか。(静)

