7日付から本紙で連載している「終わらざる夏~それぞれの戦争を訪ねて13~」。筆者は第1回で工兵隊で満州などに赴いた西岡千代吉さん(91)、第3回で空母龍驤(りゅうじょう)の整備兵、山本勝己さん(90)の戦争体験を紹介した。紙面を通して戦争の愚かさ、平和の尊さを伝えられればと思うが、戦争体験者はいずれも高齢。戦争について語り継げる体験者は少なくなってきている。
 ことし3月27日に他界した日高川町江川の井口幸男さんも戦争体験者の一人。92歳だった。井口さんは昭和17年1月に陸軍の兵隊となり春からは満州にわたって国境を警備。同年7月に1等兵となり19年3月には伍長に昇進。この年の6月には千島列島のウルップ(得撫)島で飛行場建設に従事し、翌20年3月からは台湾の飛行場で弾薬管理などの任務で活躍した。そんな井口さんが肌身離さず持っていたのが軍隊手帳。亡くなった時、ひつぎに入れることにしていたが、「おじいちゃんの歩みを後世へ残したい」と取りやめ、仏壇に大切に置かれている。
 井口さんは、家族に自分から戦争の体験を話すことはなかったが、聞けば楽しそうに話してくれたという。馬のえさをこっそり食べた思い出話や弾薬運搬中に米軍機の空襲に遭って命からがら逃げた危険な体験までユーモアを交えて。辛く苦しい話ばかりではなく、そんな中でも「家族に会いたい。生きていたい」との思いから気転を利かしてたくましく生き抜いた類の話が多かったという。軍隊手帳はそんな井口さんの形見であるとともに戦争に対する家族へのメッセージが詰まっている。井口さんの体験談、戦争への思いは子、孫、ひ孫へと永遠に語り継いでいかれることだろう。 (昌)