日高町と徳島県阿南市であった、原発立地反対運動などをテーマにしたドキュメンタリー映画「しろうお~原発立地を断念させた町はいま~」がクランクアップ。製作・脚本を務める環境問題ジャーナリストの矢間(やざま)秀次郎さん(73)=東京都小金井市=が御坊市湯川町財部の日高新報社を訪れ、作品についての思いを語った。矢間さんは東京電力福島第一原発事故を契機に、違った角度から原発問題を訴えたいと映画づくりに着手。「『本当の豊かさ、真の幸せとは何か』を考えるきっかけにしてもらえれば」とPRした。公開はことし12月の予定。
 映画は「原発立地を断念させた町」として日高町と阿南市にスポット。タイトル名は阿南市椿町の椿川に遡上(そじょう)し、春の訪れを告げる魚として知られる「シロウオ」からとった。ことし3月9日にクランクイン。3カ月かけて両市町で撮影を進め、現地で暮らす人々のいまの姿や自然、インタビューなどを通じて今後の原発のあり方を問う。監督は、ジャーナリストで写真家、東日本大震災発生後、福島の被災地や被災者の取材もしてきたというかさこさん(本名・笠原崇寛、38歳、横浜市在住)。映画は100分。
 日高町では名物クエ料理にちなんでクエの解体の様子、ハモ漁、阿尾と小浦地内の原発立地候補地、反対運動を行った人らのインタビューなどをカメラに収めた。「反対の立役者」として民宿波満の家を経営する濱一己さん(63)=方杭=らが登場し、反原発への思い、長年運動に取り組めた理由などが語られたという。
 本社を訪問した矢間さんは「これまで福島を取り上げた作品は多いが、視点を変えて原発問題を取り上げたかった」と取り組みの経緯を説明。作品については「かつて原発立地を巡る地域闘争で推進派、反対派がともども深い傷を負いながら『原発を止めた町』が日本列島に34カ所実在するという歴史に学び、南海トラフ三連動超巨大地震が憂慮される阿南市と日高町を舞台に、『ほんとうの豊かさとは何か』『真の幸せとは何か』を住民とともに探求するドキュメンタリー映画です」と紹介した。さらに原発立地を断念させた町には「地域の産業を支える人たちに誇りが強い。原発マネーに屈しない」「女性が活動している」などの条件がそろっていたと分析した上で、「日高町と阿南市では子どもたちに無料で見てもらいたい。お父さん、お母さんたちがどんな活動をしてきたから、いまの町があるのかを知ってもらいたい」と話した。
 公開は12月の予定。日高町では上映会の開催も計画している。
 日高町によると、原発問題は昭和42年7月、当時の町長が原発構想を表明、町議会が誘致を決議。昭和50年代、比井崎漁協の調査反対決議、関電の陸上調査(一部)開始などの動きを経て、平成2年9月に比井崎漁協理事会で組合長が「今後漁協としては原発問題に一切取り組まない」と表明。同月の町長選では「原発に頼らない町政」を旗印にした志賀政憲氏が初当選し、立地計画が事実上、とん挫した。志賀町政継承の中善夫町長も反原発の立場を明確に表明。国は平成17年3月4日、原発開発促進重点地点の指定を解除した。今後、原発立地を進めるためには首長の同意が必要となり、反原発の町長が在任している間は実質的に推進は不可能な状況。原発闘争はほぼ収束している。