「解剖を終えて戻ってきた圭司の体は氷のように冷たくなっていた」「自分たちの手は温かい、それが生きているということ」。先日、紀央館高校で開かれた、おかやま犯罪被害者サポートファミリーズの市原千代子さんの講演には胸を打たれた。集団暴行事件で息子を亡くした母の辛さ、やるせなさがひしひしと伝わり、子を持つ親の一人として胸に突き刺さった。朝元気だった最愛の息子が突然息を引き取る、この悲しみは想像もできない。もし自分が同じ立場だったらと思うと、冷静ではいられない。
 印象に残っているのは、「被害者になることは避けられないかもしれないが、加害者になることは避けられる」という言葉。人に暴力を振るったり、車のハンドルを握って事故を起こす、これは自分の心がけ一つで防ぐことができる。事件の被害者であるからこそ、加害者になってほしくない、そんな思いが詰まった言葉だと感じると同時に、自分も気をつけなければとの思いを強くした。交通事故は起こそうと思って運転している人はいないが、結果的に加害者になることがある。そんな危険が常に隣り合わせにある、運転者としての責任をあらためて自覚させられた。
 いじめによる自殺が社会問題となっているいま、自分の命、他人の命の尊さを考える機会を与えてくれた講演だった。高校生の心にも響いたことだろう。何気ない言葉が知らないうちに他人をキズつける。人を思いやる気持ちを忘れたとき、人は加害者になってしまう。自分がされて嫌なことは人にしない、いまこそ原点に戻る必要があることを感じさせられた。自分が加害者にならないために、市原さんの教えを胸に刻もう。 (片)